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『君の名は。』興収200億円突破が確実視 『千と千尋』に次ぐ邦画歴代2位が射程圏内に
来週中に『踊る大捜査線2』(174億円)を超え、邦画歴代4位へ
以上のような200億円への道筋を含め、本稿では、映画界における『君の名は。』のメガヒットの意味を、少し整理してみた。いろいろ広がりは大きいが、ちょっと稀な事例として、ある特定の映画館に思わぬ利潤をもたらしたことをまず挙げたい。もちろん、本作を上映しているシネコンが残らず恩恵を受けたわけだが、本来なら上映されるはずもない映画館が、上映の“栄誉”に浴し、膨大な収益を上げたことに、少々驚いたのだった。
その映画館は都内で言えば、渋谷のHUMAXシネマと池袋のシネマ・ロサである。配給の東宝は、大作や話題作の類は全国ではもちろんのこと、都内でも自社系シネコンや関係の深い映画館で上映するのが普通だ。それが今回、渋谷と池袋では、通常の編成ではあまり上映しない映画館に組んだ。これは、興行の優先順位として、東宝のなかでは『君の名は。』がそれほど高くなかったことを示す。自社系や本来入るべき映画館には、別の自社配給作品が組まれており、『君の名は。』はそこからはずれたのである。
渋谷HUMAXシネマでは、8月26日から10月7日まで渋谷地区で独占上映ができ、何と7000万円近い興収が上がった。現在も上映中の池袋シネマ・ロサは、数字は明らかにしていないが、それを遥かに凌ぐ興収を叩き出しているという。ともに、1作品としては過去前例のない成績だった。優先順位が高くなかったことが、比較的地味な映画館に、輝かしい光を当てたのである。『君の名は。』のすごさは、こうした全く見過ごされそうなところにも現れた。
2000年以降の年間興収の最高成績へ
ひとりの映画監督によって、映画界は劇的に変わる場合がある。黒澤明監督や宮崎駿監督の存在が、そうであった。ただ、その才能は監督ひとりだけによって花開くのではない。組織や周りの人の創作にかける様々な力があってこそ、監督の名前は抜きん出たものになる。『君の名は。』は、とくにその傾向が顕著な気がした。才能者の育て方、企画から脚本、映像、音楽、さらにマーケティングのありようまで、作品が結実していく過程で、多くの人材の力が混ざり合ったに違いないと推測できる。
その役割分担の詳細な分析はともかくとして、ひとつ言いたいのは、総合芸術ならぬ総合娯楽としての映画の巨大な魅力が、今回大きく花開いたのではないかということだ。これは、収支面の影響力以上に、映画界にとって重要な意味をもつのではないだろうか。そこを、よりじっくり見つめていくと、映画と映画界の新たな未来が見えてくると思う。
『君の名は。』のメガヒットの最大の功績は、実は映画と映画界の未来の姿が、かすかだがそこにありありと見えたということではなかったか。それは個の才能と、それを取り巻く多くの才能との多様で多義的な出会いによる映画製作の道筋である。それこそ、映画の原点であるところの総合力の魅力なのだと思えてならない。それは、映画の希望の光に違いない。
(文:映画ジャーナリスト・大高宏雄)